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アイドルソングにおける一人称の変遷 ―「わたし」から「ぼく」へ―

比較文学専攻
マジマ


・はじめに
 
 授業で紹介された映像、とくに昭和のアイドルソングの映像を見ていて、ふと疑問に思ったことがある。「いまのアイドルソングと、随分印象が違うように感じるのはなぜだろう」ということである。その原因は、もちろん音の質によるところも大きいだろうが、歌詞の、とくに一人称にあるのではないかと、私は考えた。どうも、昔のアイドルソングと比べて、いまのアイドルソングには、「ぼく」という一人称が多いように感じるのである。そこで、私は今回、当レポートにおいて、本当にアイドルソングの一人称は変遷しているのか、そして本当に変わっているのならば、その原因はどこにあるのか、を考察してみたいと思う。


・昭和アイドルソングおよび平成アイドルソングにおける一人称の実態
 
 それではまず、昭和アイドルソングおよび平成アイドルソングの一人称は、実際にはどのようになっているのか、調査した結果を掲載しようと思う。調査方法は、昭和アイドルについては70-80年代、平成アイドルについては2000年代以降から、私の独断でアイドル歌手を10組、それぞれにつきヒット曲上位3曲の計30曲を抜出し、その曲の歌詞を調査する、という方法を採った。なお、ヒット曲上位3曲の選抜については、http://www.uta-net.com/の「人気順」によるソート機能を利用し、上から3曲を選抜した(ただし、歌詞中に一人称が含まれていないもの、発表した年代が大きく異なるものは除外した)。また、調査に使用した楽曲は、「参考楽曲」の項に記載する。
さて、以下がその結果である・


昭和 一人称「わたし」27/30
昭和 一人称「ぼく」3/30
平成 一人称「わたし」15/30
平成 一人称「ぼく」15/30






 以上のように、昭和のアイドルソングにおいて、「ぼく」の使用頻度が圧倒的に少ないのに対し、平成においては、その使用頻度は「わたし」とほぼ同じ、という結果になった。この前提を用いて、考察を進めていきたいと思う。


・「時代」とともに変わりゆく一人称

 調査の結果、私の予想通り、時代を経るにつれてアイドルソングの一人称に大きな変化がみられることが分かった。それでは、なぜこのような変化が生じているのだろうか。

 やはり一番大きく関係してくるのは時代の違いであろう。昭和アイドルソングに少ないながらも登場する「ぼく」は、いずれも「男性目線」の歌詞においてである(『木綿のハンカチーフ』、『セーラー服と機関銃』、『青春のいじわる』)。今でこそ、女性が男性目線の歌詞を歌うことは珍しくもなんともないことであるが、昭和という時代において、そこには大きな抵抗があったのではないだろうか。

 加えて、時代によって移り変わったものをもう一つ挙げるとするならば、「アニメソング」を歌うアイドルという立ち位置である。今回調査に用いたアイドルでは、中川翔子、水樹奈々、ももいろクローバーZなどがこれにあたるのであるが、彼女らの楽曲の歌詞に「ぼく」が出現する頻度は、他のアイドルソングと比べても圧倒的に高い。これは彼女らの楽曲が「アニメソング」を(一部例外はあるが)主としているところに大きく起因していると考えてよいだろう。アニメソングの歌詞に出現する「ぼく」は、つまり「歌っている本人とは異なる世界観の主観」である「ぼく」である。前述した、「男性目線」としての「ぼく」と多少似通った理屈ではあるが、「アイドルがアニメソングを歌う」という事象は、昭和アイドルにはほとんど見られなかったことであるので、このこともまた、「時代によって変わった」アイドルソングの別側面として捉えてもよいだろう。


・アイドルソングにおける「ぼく」の果たす役割

 さて、前述した考察はいずれも、「ぼく」という一人称は「男性目線(または、アイドル本人とは異なる人間の目線)」の歌詞における表現である、という内容であった。しかし、昨今のアイドルソングにおいては、その例に当てはまらない楽曲が多く存在する。

 「ギンガムチェック」などに代表される「女性目線」の「ぼく」である。これらの楽曲に登場する「ぼく」は男性の一人称として「ぼく」ではなく、女性が自分自身を名指す「ぼく」である。これは昭和アイドルソングには全く見られない例であり、平成アイドルソングの大きな特徴である。どうして、平成においてはこのような楽曲が登場することになったのであろうか。

 その謎を解き明かすために、まず、歌詞において「わたし」と「ぼく」によって、そのニュアンスにどのような違いが出るのかを考えてみようと思う。昭和のアイドルソングに多く見られる「わたし」と「あなた」には、「大人の女性」の、「既に成立した恋愛」というニュアンスが濃く顕れる。一方、平成においてよく用いられる「ぼく」と「きみ」では、その主人公は「大人の女性」というより「少女」の、「まだ成立していない恋愛」というニュアンスが強い。いわゆる「友達以上恋人未満」という状態である。また、「ぼく」という一人称を使用することで、その曲を恋愛のみならず、「同性同士の友情」の曲としても捉えることが可能になる。以上のようなニュアンスの違いが、「わたし」と「ぼく」にはあるのである。


・まとめ―「アイドル」の立ち位置の変化―

 「わたし」と「ぼく」の違いを提示したところで、いよいよ核心に迫ってみようと思う。時代が進むにつれ、どうして「ぼく」という一人称が多用されるようになったのか。

 考えられる理由として「アイドル」の立ち位置の変化があるように、私は思う。昭和においてアイドルとは「手の届かない存在」であった。一般人とは別の世界の住人、というような認識を持たれていたことが容易に想像できる。しかし、AKB48に代表される昨今のアイドルは、握手会を催したり、そもそも「会いに行けるアイドル」というコンセプトであったりと、昭和のそれと比べると非常に身近な存在となっている。そのような「アイドルとの距離感」の変化によって、アイドルソングも、「どこかの女性の恋愛」ではなく、「身近な恋愛」を歌うようになり、それに伴って、「わたし」より親近感を覚える「ぼく」という一人称が多用されるようになったのではないだろうか。






・参考楽曲

昭和アイドル
太田裕美 『木綿のハンカチーフ』、『赤いハイヒール』、『九月の雨』
山口百恵 『さよならの向こう側』、『プレイバックpart.2』、『いい日旅立ち』
キャンディーズ 『わな』、『やさしい悪魔』、『微笑み返し』
ピンクレディー 『UFO』、『渚のシンドバッド』、『サウスポー』
岩崎宏美 『聖母たちのララバイ』、『家路』、『シンデレラ・ハネムーン』
松田聖子 『青い珊瑚礁』、『PEARL-WHITE EVE』、『瞳はダイアモンド』
中森明菜 『少女A』、『ミ・アモーレ』、『難破船』
薬師丸ひろ子 『セーラー服と機関銃』、『メイン・テーマ』、『探偵物語』
菊池桃子 『卒業-GRADUATION』、-『青春のいじわる』、『もう逢えないかもしれない』
おニャン子クラブ 『じゃあね』、『星座占いで瞳を閉じて』、『かたつむりサンバ』

平成アイドル
モーニング娘。 『ブレインストーミング』、『One・Two・Three』、『LOVEマシーン』
AKB48 『恋するフォーチュンクッキー』、『ギンガムチェック』、『フライングゲット』
ももいろクローバーZ 『猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」』、『Neo STARGATE』、『オレンジノート』
中川翔子 『空色デイズ』、『さかさま世界』、『涙の種、笑顔の花』
アイドリング!!! 『サマーライオン』、『やらかいはぁと』、『プリきゅんサバイバル』
ZONE 『secret base~君がくれたもの~』、『白い花』、『僕の手紙』

東京女子流 『Partition Love』、『Limited addiction』、『Get The Star』
水樹奈々 『笑顔の行方』、『Vitalization』、『Synchrogazer』
松浦亜弥 『LOVE涙色』、『100回のKISS』、『想いあふれて』
Perfume 『Magic of Love』、『未来のミュージアム』、『575』


・参考URL

歌詞検索サービス歌ネットhttp://www.uta-net.com/
Wikipedia「アイドル」(昭和および平成アイドル選出の参考として) http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%AB
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